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2016年04月14日

【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?④「Th1」と「Th2」のバランス説(後編)


免疫細胞の司令官であるヘルパーT細胞には、1型ヘルパーT細胞(Th1)2型ヘルパーT細胞(Th2)があり、
お互いのバランスを保つことで免疫の働きが正常に保たれるとするのが「Th1/Th2バランス説」

Th1はウイルスに感染してしまったり、がん化してしまった細胞を攻撃してくれるT細胞。
Th2はダニやほこり、花粉などアレルギー物質を排除しようとしてくれるT細胞。

お互いのバランスが乱れ、勢力が「Th1>Th2」となりTh1が過剰に働くと自分の細胞を傷つけすぎて「自己免疫疾患」を招く原因となり、逆に「Th1<Th2」となり、Th2が過剰に働くと過敏な反応を示す「アレルギー疾患」を招く原因となる・・・というお話しを前回しました。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?③「Th1」と「Th2」のバランス説(前編) 』 参照



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そういうわけで、例えば花粉症に悩まされている人は、「Th1<Th2」となり、Th2が過剰に働いているからだと言えるわけですね。

問題は、それが分かっていても花粉症を抑えられるものでもないということ。
体質というべきか、Th1とTh2のバランスはそう簡単にコントロールできるものではなさそうです。

では何故そんな体質になっちゃうのか。バランスが乱れる理由ですね。

これは、幼少期の過ごし方と関係していると考えるのが有力な説となっています。


衛生仮説


幼少期に細菌やウイルスに感染するほど、アレルギー疾患にはかかりにくいという説があります。

これは、生後しばらくは免疫細胞がまだ少なく(とくにリンパ球)、成長と共に細菌やウイルスにさらされることで免疫細胞が育つと考えられているからです。

免疫の本当の意味は「一度かかった病気に対する抵抗力が上がって、二度とかからなくなる」ことでしたよね。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?① 「高める」との違いは? 』 参照


ですから、生まれてから清潔な環境に育ちすぎて細菌やウイルスに感染する機会が少ないと、免疫細胞が育たない。特にTh1細胞が育ちません。

この場合、ずっと「Th1<Th2」のまま成長すれば当然アレルギー体質になります。

このような考え方を「衛生仮説」といい、過保護な子ほどアトピーや花粉症になりやすいと考えられています。

近年、アトピーや花粉症などアレルギー疾患を有する人が増加の一途を辿っているということは、
我々がそれだけ清潔な環境に浸っているということでしょう。
それを裏付けるかのように、農場育ちの子供はアレルギー疾患にかかる率が低いというデータもあるそうです。

花粉症の原因のひとつであるスギの花粉は、都会よりもスギが生育している集落の方が圧倒的に飛散しているはずなのに、なぜか都会に住む人の方が花粉症になりやすい。
これも衛生仮説によるものだと考えられています。



衛生仮説への疑問


しかし・・・

この説には、ちょいと疑問を感じています。

花粉症知らずの田舎育ちの人が、都会に出てくると急に花粉症になったりすることがあるという話が珍しくないからです。

ということは、これは体質の問題(Th1とTh2のバランスの問題)とは言い切れないのではないかと。

都会の地面はコンクリートやアスファルトが多いことに注目すると、土の多い田舎と比べて都会の方が花粉が舞い上がりやすいのではないかと考えることができます。花粉が土に還らないのでいつまでも空気中に循環していると思えば、都会の方が花粉症になりやすいと考えるのは容易なことです。

実際そのように考えている人も多いでしょう。

ただ、都会に住む人たちの間でも花粉症になる人とならない人がいることも確か。
少なくとも同じ環境でも差があるのであれば、やはり何らかの体質の問題はあるのかもしれません。

そこで、

改めて「花粉症」という症状に対する考え方に注目してみてはどうでしょうか。

我々は花粉症のことをアレルギー疾患だと考えている。つまり人体にとって無害であるはずの花粉に反応しているわけだから、これは過剰反応だと。

しかし本当に無害なのでしょうか。

確かに花粉自体は無害でしょう。しかし都会にまで飛散してくる間に、例えばPM2.5などの有害物質が付着することは十分考えられます。
PM2.5は粒子の大きさが名のとおり2.5?。花粉は約30?らしいから余裕で付着可能ではないでしょうか。

大気中に漂う有害物質は自動車の排気ガスや工場からの排煙などいろいろあるでしょう。

はたしてこれらが付着した状態の花粉は無害と言えるでしょうか。
免疫システムが働いてこれらを排除しようとするのは、過剰反応ではなく正常な反応かもしれませんよね。

だとすれば、Th2細胞が暴走しているのではなく頑張ってくれていると考えることができます。



「Th1/Th2バランス説」の限界


本当に免疫力のバランスはTh1とTh2で成り立っているのでしょうか。

最近の調査報告では「花粉症の人はがんにかかりにくい」と発表もされています。

東京大学のチームがすべてのがんの死亡リスクと花粉症との関係を調べたところ、花粉症の人は全疾患の死亡リスクが43%低く、特にがんは52%も低かったというではありませんか。

同じような報告は、例えばスペインでは喘息とすい臓がんの関係について、アメリカではアトピーと大腸がんの関係について発表されています。

つまりアレルギー体質だとがんにかかりにくいという結果が出ています。

理由は「アレルギー疾患は本来無害であるはずの物質や刺激に対しても過敏に反応する免疫作用なので、正常細胞が異常化したがん細胞に対しても速やかに撃退するから」ということらしい。

ごもっともな解釈ではありますが、しかしこれ。「Th1/Th2バランス説」とは矛盾しますよね。

がん細胞を排除しようとするのはTh1の働き。
アレルギー物質を排除しようとするのはTh2の働き。

よって花粉症などTh2が過剰に働いている人は「Th1<Th2」になっているはずで、がん細胞を攻撃する能力は落ちているはずになりませんか?


もうね。免疫のバランスは、Th1/Th2細胞だけでは説明できないことがありそうです。


(SHIBA)


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