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2017年01月18日

【入浴】 「胃食道逆流症(逆流性食道炎)」の入浴法 ~食後2時間は入浴しない~

 
食後に胸やけがする。酸っぱい物が口まで上がってくる(呑酸)、またゲップがよく出る。
 
それらの症状、逆流性食道炎かもしれません。
 
逆流性食道炎は、胃酸や胃内容物が食道に逆流することによって生じる病態です。
 
主症状は胸やけ、呑酸、胸痛など。
 
食道に炎症があれば「逆流性食道炎」ですが、最近では食道に炎症がない場合(非びらん性の場合)でも症状があれば「非びらん性胃食道逆流症」といい、これら逆流症による不快な病態を総称して「胃食道逆流症(GRED)」と呼んでいます。
 
主な病因としては、「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)の筋力の低下」「胃酸分泌の亢進」「食道・胃運動機能異常」などがあります。
危険因子としては生活習慣(ストレス、喫煙、高脂肪食)、胃内圧の上昇(肥満、便秘)、刺激物(アルコール、コーヒー)や薬物の影響などがあげられます。
 
下部食道括約筋とは食道と胃のつなぎ目にあたる筋肉で、この筋力が低下すると胃液などの逆流を許してしまいます。
下部食道括約筋はふだんは閉まっていて、食べた物を飲み込む時に一旦緩んで食道から胃へと食べた物を送っています。


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胃液には強い酸性の胃酸が含まれています。
胃そのものは胃壁に強い粘膜があるため胃酸から保護されていますが、
食道の粘膜は弱いので胃液が逆流すると胃酸によって炎症を引き起こしてしまうわけです。
 
胃液には胃酸粘液(ムチン)ペプシノーゲンなどがあります。
 
胃液の種類
働き
胃酸
胃酸は強い酸性で、胃から先に細菌が入らないように殺菌作用がある他、ペプシノーゲンを活性化してペプシン(タンパク質を消化する酵素)に変え、タンパク質の消化を進める働きがあります。
粘液(ムチン)
粘液(ムチン)は胃の粘膜を保護する働きがあります。胃内容物によって傷つかないのも、胃酸によって胃が炎症を起こさないのも、ペプシンによって胃自身の細胞が消化されないのも全て粘液が胃壁をコーティングして守ってくれているからです。
ペプシノーゲン
胃酸で活性化されるとタンパク質の消化酵素ペプシンになる
 
 
◆入浴上の問題リスト◆
 
 
#1 胸やけや呑酸などの不快な症状がある
#2 ストレスによって食道粘膜の過敏性が高まり、適正範囲の胃酸逆流でも胸やけなどを感じる
#3 腹圧がかかることで胃内圧が上昇し、胃内容物が逆流する
 
加齢とともに機能低下してきた下部食道括約筋を鍛えることは残念ながらできません。
そのため、対策としては胃酸の酸性度を抑えるか、胃内容物の食道への逆流を引き起こす要因を改善する必要があります。
 
 
 
◆入浴法◆
 
 
<入浴上の問題>#1 胸やけや呑酸などの不快な症状が生じる傾向にある
 
<入浴目標> 食道・胃の運動機能を改善して胃酸の酸性度を上げない
 
 
まず、胃食道逆流症(逆流性食道炎含む)にとっての入浴法には重要な鉄則があります。
それは、最低でも食後1時間、できれば食後2時間は入浴しないこと。
 
これは食後の消化活動には数時間要しますので、食後すぐに入浴をすると消化をするために胃腸に集まっていた血流が全身(主に皮膚血管) に拡散し、消化活動の妨げになるからです。
胃内容物がいつまでも胃に留まっていると、胃酸もずっと胃内に留まっていることになり、逆流する可能性が高くなってしまいます。
 
そういうわけで、胸やけや呑酸など不快な症状を生じやすい人は、食後に入浴する場合は2時間空けましょう。
だからといってその間、横になって休んでいてはいけません。横になると胃内容物が逆流しやすくなります。
 
 
さて。
胃液の分泌は自律神経と大きく関係しています。
簡単に言えば、副交感神経が優位になると胃液の分泌が亢進され、交感神経が優位になると胃液の分泌が抑制されます

 
【自律神経による胃の運動と胃液分泌の調節】
 
●副交感神経
胃の平滑筋を刺激 → 胃のぜんどう運動を促進↑
胃の壁細胞を刺激 → 胃酸分泌↑
胃のG細胞を刺激 → ガストリン(消化管ホルモン)を分泌↑ → 胃壁細胞を刺激 → 胃酸分泌↑
胃のECL細胞を刺激 → ヒスタミンを分泌↑ → 胃壁細胞を刺激 → 胃酸分泌↑
※ECL細胞からヒスタミンの放出を促すのは副交感神経から放出されたアセチルコリンによる作用と、G細胞のガストリンによる作用とがある。
 
●交感神経
胃の平滑筋を促進 → 胃のぜんどう運動を抑制↓
胃粘膜血流を減少 → 二次的に胃液分泌を抑制↓
胃の壁細胞を刺激 → 胃酸分泌を抑制↓
胃のG細胞を刺激 → ガストリン分泌を抑制↓ → 胃酸分泌を抑制↓

 
 
38~40℃は副交感神経にとっての適温です。

胃腸の周りには自律神経(交感神経、副交感神経)がビッシリ張り巡らされています。

食事をする時は交感神経(興奮、快楽)が優位になりますが、
食後は副交感神経(リラックス)が優位に働いて胃腸の消化活動を促進しています
(食後に眠くなるのは副交感神経が優位になることも要因)
 
なので、入浴によって副交感神経の邪魔をしてはいけません。

熱いお風呂(例えば42℃以上)は交感神経を刺激してしまい、消化活動を低下させてしまうので、逆流性食道炎には逆効果になる可能性があります。

・・・が、しかし!

人によっては熱めのお風呂の方が症状が和らぐという方もいらっしゃいます。

これは胃酸過多が原因の逆流性食道炎の人には有効なのかもしれません。

 
熱い風呂に入ることで交感神経が刺激され、消化活動が低下、つまり胃酸の分泌が抑えられているからだと考えることができます。
 
しかし、これは誰にでも当てはまることではなく、後述しますが、人によっては交感神経を刺激しても効果が得られるとは限りません。

 
 
<入浴上の問題>#2 ストレスによって食道粘膜の過敏性が高まり、適正範囲の胃酸逆流でも胸やけなどを感じる
 
<入浴目標> ストレスを緩和し、逆流症の症状を起こりにくくする
 
 
入浴や足浴、マッサージなどのリラクセーションを行って、心身の安静を保つことはとても効果があります。
 
ストレスは交感神経を刺激し、胃酸分泌過多、粘液分泌減少、粘液血流障害を招くと考えられています。
 
と聞くと「え?交感神経は胃酸の分泌を抑えるから、逆に良いんじゃないの?」と思われるかもしれません。
 
確かに交感神経は胃酸分泌の抑制に作用しますが、胃酸の分泌促進に作用するのは自律神経だけではないんです。
 
食べ物が胃に入り胃壁が伸展されると、壁内神経叢を介する反射回路が働いて自律神経とは関係なく胃液が分泌されます。
 
なお、ストレスによる交感神経の刺激は胃粘液の分泌を減少させるわけですから、胃酸と粘液のバランスが乱れ、相対的に胃酸過多に傾くわけです。

そのため胃粘膜が弱くなりますが、ただでさえ弱い食道粘膜はさらに弱くなり、多少の胃酸逆流でも不快な症状が生じてしまうと考えられます。
 
 
【自律神経以外による胃液分泌の調節】
 
●胃液分泌の促進
胃内容物が直接胃の壁細胞を刺激 → 胃酸分泌↑
胃内容物にタンパク質の分解産物(アミノ酸やペプチド)や刺激物(アルコールやコーヒーなど)があった場合 → G細胞を刺激 → ガストリンを分泌↑ → 胃壁細胞を刺激 → 胃酸分泌↑
 
●胃液分泌の抑制
胃内部(幽門部)のpHが2.5以下になる
胃から十二指腸に脂肪が送られる → 十二指腸壁から胃酸およびガストリンの分泌を抑制するホルモン(セクレチン、GIP)が分泌
 

 
<入浴上の問題>#3 腹圧がかかることで胃内圧が上昇し、胃内容物が逆流する
 
<入浴目標> 生活習慣や行動を改善し、腹圧を上げない

 
腹圧がかかるような行動は、胃内圧の上昇を招き、胃液の逆流が起きやすくなりますので注意しなければなりません。
 
入浴でいえば、例えば前かがみになってシャワーしないことなどが言えると思います。
 
また、便秘は腹圧を上げる要因となりますから、便秘があればこれを改善するようにしましょう。
 
 
 
 
「浴槽に浸かると胸やけがする」という人は、浴槽浴による水圧によって胃内圧が上昇して逆流している可能性もありますので、この場合はシャワー浴に切り替えてみるのも方法のひとつです。ただし、浴槽浴のようなリラックス効果は期待できなくなります。
 
 
最後に、胸やけと便秘の両方に効くツボを紹介します。
 
ひとつは「天枢(てんすう)」といって、おへその両側で親指の幅2本分離れたところにあるツボで、軽くへこむ程度に押し込み、その周辺を円を描くようにマッサージを加えるとさらに排便を促進されます。
 
足三里」は膝下外側のくぼみから、親指の幅3本分下がったところにあるツボで、消化機能を促進させて便秘にも効くと言われています。
 


◆温泉なら炭酸水素塩泉(重曹泉)


飲泉が楽しめる温泉がありますよね。

胃酸過多による食道炎の場合なら、空腹時にアルカリ性炭酸水素塩泉(重曹泉)を飲むと、胃酸が中和されると言われています。

逆流性食道炎に合う泉質なので、飲泉のできる炭酸水素塩泉(重曹泉)の温泉へ行かれた時は試してみてはいかがでしょうか。



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