近年、健康の観点から長らく悪者扱いされていたフシのある「肉食」。
これまで私たちは「発がん物質がある」「腎機能を低下させる」「血液がドロドロになって動脈硬化を招く」などという理由から、様々な疾患を発病するリスクが高くなるという風に聞いてきました。
特に肉の脂、つまり飽和脂肪酸に対するマイナスイメージは強く、健康志向の人には避けられている印象があります。
ところが最近では肉食の良さが見直されている傾向が出てきました。
というのは、肉食が健康に与える良い点が次々と報告されているからです。
どうやら風向きが少し変わったような気がします。
確かに、栄養学の観点からも肉の栄養は注目に値することが分かります。
◆タンパク質
「肉」といえば豊富なタンパク質ですよね。タンパク質と言えば筋肉や骨、血液の材料となる栄養素。
タンパク質は消化される過程でアミノ酸に分解されて腸から吸収されますが、このアミノ酸にはたくさんの種類がありまして、肉には人の体に必要なアミノ酸が揃っています。
もう少し詳しく言うと、アミノ酸の中でも体内で合成できないものを「必須アミノ酸」と言い、必須アミノ酸は体内で作り出すことができないので食べ物から摂取するしかありません。この必須アミノ酸は9種類ありまして、どれかが一つ欠けても筋肉や骨、血液が十分に合成できません。
私たちがよく食べる肉(豚、牛、鶏)には9種類全てが揃っているので、タンパク質を摂取するには理想の食品なんですね。
ただし、タンパク質は消化に時間がかかるため、これが「肉は消化に悪い」というイメージに繋がり、敬遠される要因になっているかもしれません。
しかし、よくよく考えてみますと、タンパク質を消化する消化酵素もまたタンパク質でできており、タンパク質を避けすぎると消化酵素が不十分となり、ますます消化力が低下する可能性だって考えることができるわけです。
◆脂質
肉が悪者にされる最大の理由は脂のせいかもしれません。
飽和脂肪酸はバターやラードを思い浮かべると分かりやすいですが、熱を加えないと液体になりません。常温の環境下では固まりやすいので、これが血液をドロドロにするとして敬遠されている要因ではないでしょうか。
ここで豚肉、牛肉、鶏肉に多い脂肪酸を見てみると、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられます。
パルミチン酸は飽和脂肪酸の一つですが、実は肌の健康には不可欠な栄養素なんですよ。
嘘だと思ったらその辺の化粧品やシャンプーなどの成分を見てみると良いですよ。最近ではパルミチン酸を配合した製品が増えてきているので見かける機会も多いのではないでしょうか。
パルミチン酸が肌の健康に良いとされる理由は、ビタミンAを安定させる働きにあるといえます。
ビタミンAは皮膚や粘膜を強くする脂溶性のビタミンで、パルチミン酸と一緒に摂取することで効率よく吸収されるだけでなく、肌の健康にしっかりと働いてくれるようになります。例えば皮膚のターンオーバーが正常化されたり、過剰な皮脂を抑制したり、シワの予防に効果が期待できます。
しかも肉にはビタミンAも豊富に含まれていますから一石二鳥なわけですよ。
また、パルミチン酸には抗酸化作用もあるので、動脈硬化の予防にもなるというから驚きです。まるで肉の持つイメージと反対です。
そしてステアリン酸ですが、これまた抗酸化作用があり、動脈硬化の予防に役立つと考えられています。
事実、肉食による脳卒中の発症リスクは高くなるどころか、反対に低下するということが最近の研究結果で分かってきたようです(ただし心筋梗塞のリスクは高まるという研究報告もある)
逆に安全だと思われてきた植物油であるリノール酸は、実は酸化しやすく、これが動脈硬化やアレルギーの原因となると指摘されるようになってきました。
さらにステアリン酸にはLDLを減らし、HDLを増やすことも確認されています。
今後は肉によるコレステロールへの影響も見直されるかもしれません。
さて。パルミチン酸とステアリン酸は飽和脂肪酸ですが、オレイン酸は不飽和脂肪酸です。しかもオレイン酸と言えばオリーブ油の主成分でもあります。・・・と、こう聞くとなんとなく肉の持つイメージも変わってきませんか?
◆ビタミン・ミネラル
肉の栄養素で意外と認知されていないのがビタミンやミネラルも豊富に含まれていること。
ビタミンは先述のAの他にも、B群、Eなどが豊富です。
ビタミンB群は代謝に必要不可欠なビタミンであり、消化を助けたり疲労回復を促進します。
ビタミンEは脂溶性のビタミンで抗酸化作用が強く、細胞を覆っている細胞膜に取りつき、細胞が活性酸素によってがん化しないように守っています。
ビタミンCも抗酸化作用を持っていますが、ビタミンCは水溶性なのでビタミンEと同じ真似はできません(溶けてしまうから)
肉のミネラルでは鉄分が豊富。
鉄分は血液のヘモグロビンを増やして酸素を体の隅々まで行き渡らせるために必要な成分で、鉄分が不足すると貧血になります。
脳が貧血を起こせば立ちくらみ、心臓が貧血になれば動悸や息切れ、筋肉の細胞が貧血になれば疲れやすくなります。
鉄分はほうれん草やひじきなど植物性の食品でも豊富に摂取できるのですが、同じ鉄分でも違いがあるため(ヘム鉄と非ヘム鉄)肉ほど吸収されません。つまり、吸収率の高いヘム鉄を多く含む肉類は貧血予防に最適な食品と言えるわけです。
このように、肉食にもいろいろと見直されて然るべき要素がたくさんあるわけで、そう考えると食卓から肉を除け者にするのは不自然だというものです。
日本人の平均寿命が長くなったのは、「和食がヘルシーだから」というよりも、そこへ「欧米の食文化が加わったから」だとも考えられますよね。
もちろん、肉食ばかりに偏ることは健康によろしくありませんが「健康になりたければ肉も食べるべき」と言えるのではないでしょうか。