【健康】 アロマバスのすすめ③ 香り成分のメカニズム
アロマバスがどうして健康の維持に有効かを説明します。
アロマといえば香りを嗅ぐ芳香浴が一般的ですが、わざわざお風呂に精油を垂らして入浴する(アロマバス)ことにどんな意味があると思われますか?
そもそも。植物から芳香成分を抽出した精油(エッセンシャルオイル)には、心・精神・体の健康を保つための様々な作用がありますが、どのようなしくみで作用しているのでしょうか。
単にいい匂いだから「快」と感じているだけではありません。
そこには脳や自律神経系、免疫系、内分泌系(ホルモン)に影響を与えるような薬理的な働きが存在するんです。
そう。例えばアロマの香りでリラックスできるのは、自律神経が副交感神経が優位になることやセロトニンが分泌されることなどが関係しているんですね。
不思議ですよね。薬を経口投与しているわけでも注射しているわけでもなく、ただ匂いを嗅いだだけで心や体に変化を与えるなんて。
そういうわけで、香り成分がどのようなメカニズムで心身に影響を与えるのか、昔からいろいろ研究されてきた経緯があります。
香りのメカニズムについてはまだまだ解明されていない部分もありますが、嗅覚から脳に伝わる経路は分かっています。
まず、香り成分の分子が鼻腔の奥に存在する嗅毛(きゅうもう)でキャッチされるところから始まります。
嗅毛は嗅細胞から伸びていて、香り成分の分子が嗅毛でキャッチされると嗅細胞が興奮し、その刺激が電気信号となって嗅神経に伝達されます。
その後、大脳に伝わるわけですが、嗅覚ならではの大きな特徴があります。
視覚・聴覚・味覚の情報はダイレクトに大脳皮質に伝わるのに対して、嗅覚の情報は「まず先に大脳辺縁系に伝わってから少し遅れて大脳皮質の嗅覚野に伝わる」という違いがあるということ。
大脳皮質は「これは何か?」ということを認識する論理的思考を司る場所であるのに対して、大脳辺縁系は情動や記憶を司る場所です。
そのため、例えば花の匂いを嗅いだとき、「これは花の匂いだな」と認識するよりも先に「いい匂いだな」と感じるというのが嗅覚の特徴となっています。
信号は大脳辺縁系からは大脳皮質の嗅覚野以外に視床下部と下垂体にも伝わります。
視床下部からは「免疫系」「自律神経」、下垂体からは「内分泌系」に作用します。
そしてこれらの作用が全て同時に、しかも瞬時に行われるというのも嗅覚の特徴です。
驚くなかれ、香りを嗅いでからそれを脳が認識するまでの伝達時間はわずか0.15秒。
これはよく引き合いに出される話ですが、皮膚をつねったりしてその痛みを脳が認識するまでに0.9秒だと言われていますから、それと比較して嗅覚の伝達速度がいかに速いか分かるかと思います。
①嗅覚による経路
鼻 → 嗅神経 → 大脳辺縁系 → 大脳皮質・視床下部・下垂体 → 自律神経や内分泌に作用
さて。
香り成分が心身に作用する経路は、実は嗅覚からだけとは限りません。
呼吸器や皮膚からも香り成分は吸収され、身体の各組織で作用することもあるんです。
呼吸器からの経路とは、香り成分が呼吸と共に吸うことで気管支や肺で取り込まれて血管を介して体内を循環すること。
皮膚からの経路は皮膚から直接体内に吸収されて、やはり血管を介して体内を循環する過程を辿ります。
②呼吸器からよる経路
口 → 気道の粘膜・肺胞 → 血管 → 体内の各組織で作用
③皮膚からによる経路
皮膚 → 皮膚血管(末梢血管)・リンパ管 → 体内の各組織で作用
呼吸器と皮膚からのどちらも血管に取り込まれて体内で作用するという点においては共通していますが、精油の中には呼吸器からの経路では血管に取り込まれるだけでなく直接気管支や肺に作用して咳や痰を鎮めたり、皮膚からの経路では直接皮膚に作用して肌を引き締めたり保湿したりする物もあります。
とはいえ、芳香浴による薬理作用といえば、呼吸器や皮膚から香り成分が吸収されて作用することもあるとはいえ、基本的には嗅覚からの作用によるものです。
そこでアロマバス。
芳香浴と比べて、浴槽に精油を垂らして入浴するアロマバスには、香り成分を鼻から吸収するだけでなく、湯気と共に吸い込んだ香り成分は呼吸器から、そしてお湯に浸かっている皮膚からも成分が吸収されるので、アロマバスには精油が持つ作用をとても有効に活用できる方法だともいえます。
例えば皮膚の収斂(しゅうれん)作用を持つサイプレスという精油があります。
「肌のシワやたるみが気になるな~」という場合にはサイプレスが有効ですが、こんな時はぬるめのお湯を入れたお風呂にサイプレスを3~5滴を垂らして入浴すると、サイプレスが持つ収斂作用が働き、単に匂いを嗅ぐだけよりも肌の引き締め効果が期待できますよね。
匂いを嗅ぐだけでなく、呼吸器や皮膚からも香り成分を吸収できるのがアロマバス。
入浴すること自体にもリラックス効果があるわけですから、そこにアロマ効果が加わることがアロマバスの最大の魅力です。
このようなことから、上手にアロマバスを活用することは健康を維持するうえでとても有効な手段となります。
ただし、精油には刺激性の強い物があったり、人によっては敏感肌である場合があるので、使用法や使用量には気をつけなければならない場合もあるということは注意しなければなりません。