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映画レビュー『ツレがうつになりまして。』


アラピアでは毎月4作品の映画を上映しています、どうもSHIBAです。

12月の上映作品から僕がオススメするのは『ツレがうつになりまして。』


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主演は堺雅人さんと宮崎あおいさん。

堺雅人さんがうつ病患者で宮崎あおいさんがその妻を演じる夫婦の物語です。


テーマが「うつ病」なので、重い感じになりそうなものですが全然そんなことはなくて、笑えるところも挟みながらしかし、うつ病とはどんな病気かをさりげなく視聴者に伝えている絶妙なバランス感を持った作品です。

うつ病はよく「心の病気」と例えられますが、いい得て妙な表現でありながら、実は誤解を招く表現でもあり、そのへんの難しさが映画の中で上手く描写されていたと思います。

この作品はテーマがテーマだけに賛否両論の評価がありますが、「うつ病はこんなもんじゃない」とか「理解できない」という評価をしている人は、おそらく作り手の意図が伝わらなかったのかもしれません。


この作品では、うつ病のあるあるネタが満載となっていてうつ病経験者の共感を得ている一方で、うつ病について詳しくない人にとってみればうつ病の症状や心理状態を学ぶことができるように描かれています

気になったのは、そのように描くことでうつ病で苦労している人たちの力になろうとしているのか、はたまた社会にうつ病の理解を深めてもらおうとして作られたのか・・・

その答えはおそらく「両方とも」だとは思うんですが、メッセージ色があまりなく、

例えば

●「うつ病は治す」ばかりでなく「うつ病と上手く付き合う」という選択肢もある

●「うつ病になった原因は何か」を考えるのではなく「うつ病になった意味は何か」と意義を見出す


というように「こんな考え方もありますよ」と提示しているあたりが、うつ病で悩んでいる人たちに対し教訓めくことなく気持ちを軽くしてあげているような気がします。

そしてうつ病当事者以外の人に対し、「うつ病とはこうなんだ」という説教じみることなく、自然と「ああ、うつ病の人たちはこんな事で悩んでいるんだな」とその苦悩や葛藤を知ることで理解を深めることができる。


だから暗い作品にもなっていないし、押し付けがましくもなっていない嫌味の無い作品となっています。
この距離感が絶妙なんですよね。



そしてこの作品の真骨頂は作品中の宮崎あおいさんのセリフから読み取れます。

「うつのこと誰にも話せなかったのは“うつ病は偏見や誤解が多くて誰にも理解されない。同情されるのも嫌だった”からだと思っていたが違った。本当は“私がうつ病になったツレが恥ずかしくて隠してた” だから「ツレがうつになりました」って言えた自分が嬉しかった」


この言葉の持つ意味は深いですよ。


私たちはうつ病に限らず精神疾患を患っている人や障がい者、それに認知症の人など、およそ健常者と呼ばれる人から見れば理解しがたい症状で苦しんでいる人たちに対し偏見や差別をしてはいけない。ということは理解している。

しかし、そのような人たちに私たちは敢えて見ないようにしたり気付かない素振りをするような行動に出る。
自然に振舞うことで相手を気遣う意図がそこにはあるのだが、同時にそれは意識的に避けている」という意味に解釈できてしまう場合もある。

変に優しく接しればそれは偏見から来る行為であり、そのようなぎこちなさが生まれるのはやはり「無知」であることが原因だと思っています。

避けていればいつまで経っても無知のままであり、時に失礼な行為であっても積極的にかかわっていくことは、失敗もまた勉強になるのであれば僕は無関心でいるよりずっとマシだと思うんですね。


映画の作品の中ではうつ病を周りのみんなに隠していた理由が「どうせ理解されないから」と強がっていたものの本心は「恥ずかしかった」からだったと告白しています。

自分の殻を破ることで気持ちが軽くなりますよ。というメッセージでありながら、それは「頑張る」ことではなく「受け入れる」ことで可能になる境地ですよと。だからもっとありのままの自分でいきましょう・・・と、うつ病で自信をなくしている人たちに前へ進む方法を伝えているようにも思えます。


そして、うつ病の人たちが病のことを「恥ずかしい」と思ってしまう原因にはやはり「理解されないから」なんだなと気付かされるわけです。
社会がうつ病に対して無知であるうちは、うつ病患者も自分の殻を破ることは難しいだろうなと。


これはうつ病当人と社会の双方の理解と歩み寄りができて初めて前進する問題なんだなぁと考えさせられる作品でした。


余談ですが・・・

何か月か前に、うつ病や躁うつ病と診断された後も、自分らしく生きていくにはどうしたらよいのかを当事者本人の声を聞きながら、家族や専門家と共に考えるパネルディスカッションの模様がテレビで放映されていました。

そしてこの討論会に『ツレがうつになりまして。』の著者である細川貂々さんと、そのツレのモデルとなった望月昭さんが出席されていました。

その席で望月さんは、自分はうつ病になる以前は何でもできる自信家で、勝ち負けにこだわり、弱い人間に対して冷たい視線を向けるほどバリバリな仕事人間だったのに、うつになった時は「自分はダメな人間だ」と泣いてみたり、妻に「手を繋いでくれないと歩けない」と子ども帰りしたみたいな状態になったことを赤裸々に告白されていました。

うつ病は自分でも気づくのが難しく、重症になる前に診断して治療を行うためには、家族や周囲の人が気づくことがとても大切だと言います。

その様子は映画の中でも描かれていて、うつ病であるサイン(調子が悪くなる症状)はいくつもあったのに、そのことに全然気づかなかった妻がとても反省しているシーンは、この病の難しさを上手く表現していたと思います。

うつ病であることを診断された後に、会社を辞めようとうつ病であることを報告しても全然取り合ってくれない、理解してくれない場面なども、うつ病に対する社会の認識の乏しさが描かれていたと思います。


つくづくこの作品はうつ病のことを学ぶことができるように上手に作られていることが分かりますよ。

当館では今月の奇数日が上映日です。