ピークが過ぎた感のあるインフルエンザですが、依然注意が呼びかけられています。
そしてこの度、国立感染症研究所の調査により、インフルエンザの感染に伴い、けいれんや意識障害などが起きる「インフルエンザ脳症」を発症した患者数が今季は161人と、過去5年間で最も多くなっていることが報告されました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160319/k10010448941000.html
NHKニュース:インフルエンザ脳症 過去5シーズンで最多
NHKニュース:インフルエンザ脳症 過去5シーズンで最多
インフルエンザの何が怖いって、重症化すると肺炎などの合併症を起こすことです。
「インフルエンザ脳症」もインフルエンザの合併症のひとつ。
インフルエンザ脳症とは、急な高熱の後、けいれんや意識障害、異常な行動を起こすものです。
進行が早く、乳幼児のインフルエンザ脳症は死に至る場合もある危険な症状として知られています。
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症ですし、脳症というからにはウイルスが脳にまで達した状態なのかな?・・・と思われるかもしれませんが、さにあらず。
病理学的には脳内にはウイルス抗原は認められないそうです。つまりウイルスが直接脳を侵すわけではないということ。
インフルエンザ脳症の発症機序はまだ解明されていないということですが、脳浮腫がみられることが分かっています。はっきりとしたことは言えませんが、免疫反応によるサイトカインという化学物質が影響していると考えられています。
ヒトは細菌やウイルスに感染すると、これら病原体を撃退しようと免疫細胞らが戦ってくれます。
このとき発熱することがありますが、これは病原体が熱に弱いからで免疫細胞らが有利に戦うための防御反応です。
免疫細胞らは自分たちが有利に戦えるようにするため、IL-1、TNF-α、IFN-γなどのサイトカインを産生します。
これらのサイトカインは「炎症性サイトカイン」と呼ばれ、脳の視床下部の近くにある血管の内皮細胞に作用し、プロスタグランジンE2(PGE2)の合成を促進します(このPGE2によって発熱すると思って下さい)
これらのサイトカインは「炎症性サイトカイン」と呼ばれ、脳の視床下部の近くにある血管の内皮細胞に作用し、プロスタグランジンE2(PGE2)の合成を促進します(このPGE2によって発熱すると思って下さい)
この時、炎症性サイトカインによって血管の拡張や血管の透過性が亢進され、血液の水分を漏出させ、脳のむくみ(脳浮腫といいます)を起こします。当然頭が痛くなりますね。
なぜ血管が拡張して透過性亢進するのかといえば、ウイルスなどの病原体と戦う免疫細胞たちを現場に駆け付けやすくするため。普段は血管の中を巡回している好中球(免疫細胞のひとつ)らを血管から飛び出して病原体が潜んでいる組織へ移動しやすくするためなんですね。
でもなかなかインフルエンザウイルスを撃退できないと、脳浮腫によって脳の圧が高まり、やがて脳は逃げ場を求めて延髄を圧迫するようになります(これを脳ヘルニアといいます)。
結果、意識障害やけいれんになると・・・
この説は、アスピリンでインフルエンザ脳症になる場合があることもヒントになっているかもしれません。
アスピリンはPGE2の合成を抑制することで熱を下げる解熱鎮痛剤として作用します。
熱を下げることは良いことのように思えますが、考えようによっては、免疫細胞らが有利に戦える状況を邪魔しているわけです。
そのために、なかなか病原体が撃退できず「なんだよ。これじゃ全然戦かえねーじゃねぇか。冗談じゃないよ」とTNF-αら炎症性サイトカインの産生がますます盛んになることにはならないだろうか。
そのために、なかなか病原体が撃退できず「なんだよ。これじゃ全然戦かえねーじゃねぇか。冗談じゃないよ」とTNF-αら炎症性サイトカインの産生がますます盛んになることにはならないだろうか。
とっとと熱が出て病原体を撃退できれば脳浮腫も治まろうというものですが、熱を下げられたためにいつまでも脳の圧が高まったままになり、やがて意識障害やけいれんを起こすみたいな・・・
そのためかインフルエンザの時にアスピリンを投与してはいけないことになっています。
まあ、これも解明されていないので推測でしかありませんが、幼い子が熱を出したときには自分勝手な判断で市販薬で熱を下げさせようなどと思うのは危険だということです。
うっかりそれがインフルエンザだったら、逆に重症化してインフルエンザ脳症を合併するかもしれません。
それにしても気になるのは、インフルエンザ脳症は子どもに多いこと。
今回の調査では、インフルエンザ脳症の患者全体に占める15歳未満の割合は、昨年60~70%程度であるのに対して、今期は86%と非常に高くなっていることが分かっています。
もともと子どもに多いうえに、最近になってさらに増えている。
インフルエンザ脳症は、脳がウイルスに侵されるのではなく、免疫系による過剰な反応によるものといえるので、これはある意味アレルギー様の症状だと言えます。
確かにアトピーや喘息、花粉症といったアレルギー性の症状や食物アレルギーが年々増えてきていることを考えれば、インフルエンザ脳症も同じようなことなのかもしれません。
今はまだインフルエンザ脳症はマイナーな症状としてみられているかもしれませんが、今後注目されることになるかもしれませんね。
(SHIBA)