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2016年04月

【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑦「自律神経のバランス」との関係(前編)


これまで「免疫力のバランス」とはどういうことなのかを考察してきましたが、
考えれば考えるほど複雑でありながらしかし、ヒトの体って上手にできているものだなぁと感心させられます。

ところで、免疫力のバランスに大きく影響するものは何か?と問われれば、
それはおそらく自律神経であろうと思われます。

自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが、免疫と大きく関係しているものと考えられています。

とはいえ、その「自律神経のバランス」というものを理解することもまた厄介なもの。

というのは、何か体調が悪いと「自律神経のバランスが乱れているから」と言えば片付けられることも多いほど、いろんな症状に関係しているからです。

なんとも曖昧で便利な表現ですね。



「自律神経のバランス」とは


自律神経とは意思とは無関係に働いている神経で、心拍や呼吸、消化や排泄などの機能を調節しています。

交感神経の末端からはノルアドレナリンが分泌され、心拍数や呼吸数の増加、血圧の上昇、消化機能の抑制に作用します。
副交感神経の末端からはアセチルコリンが分泌され、交感神経とは逆に心拍と呼吸を抑え、血管の拡張、消化機能の促進に作用します。

交感神経と副交感神経の働きは正反対なので、
自律神経のバランスとは「交感神経と副交感神経のどちらが優位に働くか」を意味します。


簡単にいうと

 交感神経 ・・・戦闘(緊張モード)
 副交感神経・・・休息(リラックスモード)


だとイメージすれば理解しやすいです。

日中、仕事をしている時は比較的交感神経が優位な時間帯で、仕事が終わって休んでいる時が副交感神経優位だと言えますね。

なので仕事などでストレス下にある状況では交感神経が刺激されています。

よく「ストレスは万病の元」と言いますよね。
あれはストレスが免疫力を下げるからだと考えられています。

と、こう書くと「では、交感神経は免疫力を下げるのか?」という意味に解釈できるのではないかと思いますよね?

「ストレスが免疫力を下げる」と考えられる理由とは・・・

それが理解できると自律神経と免疫力の関係が見えてきそうです。



白血球と自律神経の関係


これまで何度も話題に取り上げた好中球にしろT細胞にしろ、これら免疫細胞たちの主体は白血球です。

白血球は「顆粒球」「リンパ球」「単球(マクロファージ)」に大別できます。

なかでも多いのは顆粒球で、白血球全体の5~6割を占めています。
しかも顆粒球には好中球好酸球好塩基球の3種類がありますが、その殆どは好中球です。

なので、血液検査などで「白血球が多いですね」と言われたら、それは好中球が多いんだなと思って構いません。


自律神経と大きく関係していると考えられているのが顆粒球とリンパ球。

特に有力な説は「交感神経が優位だと顆粒球が増え、副交感神経が優位だとリンパ球が増える」というもの。

まあ説というより理論ですね。


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顆粒球、といっても殆ど好中球ですが、この好中球は細菌を貪食し分解、つまり殺菌してくれる働きをします。
ただし、その時に活性酸素を武器にするのでどうしても外にも放出してしまうんですが、これが炎症の原因になるんですね。

殺菌してくれるのはありがたいけれど、過剰に働くとその分炎症反応を起こしやすいという側面があるんです。
これが炎症性の自己免疫疾患動脈硬化の原因になります。

好中球が放出する活性酸素によって血管の壁が傷つけられると、傷口にかさ蓋ができます。
そこに血管内を流れている脂肪やコレステロールなどが付着して動脈硬化へ発展すると考えられています(もちろん他にもいろいろ理由はある)

よく「交感神経が優位になると血圧が上昇するから動脈硬化になりやすい」と言われていますが、免疫の働きによっても説明がつきますね。

さらにはの原因にもなります。

癌化した細胞を叩いてくれるはずの細胞障害性T細胞NK細胞はどちらもリンパ球ですが、顆粒球が増えてリンパ球が減っている状態では癌化した細胞の増殖を許してしまうと考えられているんですね。


では副交感神経を優位にして、つまりリラックス状態に浸ってリンパ球を増やせば良いのか?というとそんなに単純ではない。

リンパ球が増え過ぎると、細胞障害性T細胞やNK細胞が活性化されて、感染した細胞や癌化した細胞を処理してくれるのはありがたいけれど、過剰に働くとその分正常な自己細胞をも傷つけてしまう側面があるんです。

また、ヘルパーT細胞のTh2が過剰に働くとアレルギー症状を起こすのはもう説明不要でしょう。

ここまでの話は

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?② 「顆粒球」と「リンパ球」のバランス説』 参照

と重なるので難しくはないと思います。


問題は「なぜ交感神経が優位になると顆粒球が活発化し、副交感神経が優位になるとリンパ球が活発化するのか?」

ですね・・・


(SHIBA)


関連記事

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?① 「高める」との違いは?』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?② 「顆粒球」と「リンパ球」のバランス説』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?③「Th1」と「Th2」のバランス説(前編)』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?④「Th1」と「Th2」のバランス説(後編)』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑤「細胞性免疫」と「体液性免疫」』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑥「Th17」と「Treg」の関係』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑧「自律神経のバランス」との関係(後編)』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑨ストレスは敵か?』
『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑩ホルモンの影響』


 

【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑥「Th17」と「Treg」の関係


わりと最近まで、ヘルパーT細胞には「Th1」と「Th2」とがあり、この2つのThによってバランスを保っていると考えられていました。

ところがこの「Th1/Th2バランス説」だけでは説明できないことが出てきて、その後Th1、Th2細胞に続く第3番目のヘルパーT細胞が発見されました。今回はその話・・・



Th17細胞の発見


Th1もTh2も、元々は同じ「ナイーブT細胞(Th0)」と呼ばれる、まあTh1やTh2の前駆体となるT細胞で、
何らかの抗原提示を受けることでTh1やTh2へ分化します。

「抗原提示を受ける」とは、体内に何らかの病原体が侵入してきた時に、最前線で活躍している樹状細胞ら抗原提示細胞たちがこの病原体の情報(これを「抗原」という)をナイーブT細胞の元へ持ち帰り提示します。

抗原(病原体の情報)を受け取ったナイーブT細胞は、その内容に応じて姿を変えるわけですが、かつてはそれがTh1とTh2と呼ばれる2つのサブセットからなることが知られていました(分化したヘルパーT細胞のことをサブセットという)

抗原によって細胞性免疫が必要な場合はTh1に、体液性免疫が必要な場合はTh2に分化します。
そして長らく「Th1/Th2バランス」ですべての抗原に対応しているという解釈が常識となっていました。

転機が訪れたのは2005年。

動物実験で、関節リウマチに似た自己免疫性の関節炎を発症しているマウスにTh1系のサイトカインを欠損させても変化がみられないことが分かり(むしろ増悪)、かつこれらの症状を抑制するのは「IL-17(インターロイキン17)と呼ばれるサイトカインを欠損させた場合であることが見出されました。

それまでは、関節リウマチや多発性硬化症といった自己免疫疾患を発症しているマウスでは、「IL-12」や「IFN-γ」といったTh1系のサイトカインの亢進が認められていたので、自己免疫疾患というものはTh1が関与しているものと考えられていました。

しかしこの実験で、これらの症状を引き起こす原因はIL-17であることが分かり、そのIL-17を産生するのはTh1やTh2とは異なるT細胞であることが発覚。

かくして、このT細胞は「Th17細胞」と名付けられました。


Th1、Th2ときて「Th3」と名付けられるかと思いきや「Th17」・・・これはIL-17にちなんで名付けられたとのこと。

自己免疫疾患に関与していると言われると、なんだかTh17は悪者みたいな存在に思われるかもしれませんがまあ聞いてやって下さい。

Th17が産生するIL-17は、線維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞などに作用して、炎症性サイトカインやケモカインを産生させ、好中球の遊走を促進することが分かっています。

ケモカインとは信号みたいなもの。「ここの侵入者(病原体)がいるよー!!」と叫んで好中球を呼び寄せる役割があります。

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「好中球の遊走」とは、好中球は通常は血管内をパトロールしているのですが、どこかの繊維芽細胞や上皮細胞などからケモカインで呼び出されると最寄りの血管へ集まり、血管から飛び出して現場へ駆けつけることを言います。

好中球は病原体を食べて分解する能力がありますので、Th17は結果的に好中球の働きを促進させ、生体防御に大きな役割を果たしているといえるわけですね。

ただ、好中球は病原菌を食べる際に、細胞をサビ付かせて破壊する活性酸素を武器にして分解しているのですが、活性酸素はとても強力で、時に正常細胞をも傷つけてしまいます。

問題なのは、この状態が続くと炎症を引き起こしてしまうこと。

Th17が過剰に働くと炎症性の自己免疫疾患の原因になるのはそのためです。

Th17が関与していると考えられる主な自己免疫疾患には、関節リウマチの他に多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)が該当します。

炎症性による疾患だということで、自己免疫疾患だけではなく動脈硬化やアルツハイマーとTh17との関連性も研究されているようです。



「Th17」は免疫のアクセル


ここでTh17のTh1・Th2との違いを見てみよう。面白いことが分かりますよ。

何度も言いますが、Th1・Th2は自然免疫では対処しきれなかった抗原(異物)に対し特異的な反応を示します(全ての抗原に反応するわけではない)

Th1とTh2のどちらが活性化されるかは抗原によって決まりますが、リンパ球には数に限りがあるので一方が活性化されるともう一方は抑制されるという特徴があります。
つまりTh1とTh2の両方が活性化されるということはない。だから「Th1/Th2」は、免疫の方向性を決めるいわばハンドルのような役割があると言えます。

これに対し、Th17は抗原に対し特異的に反応するわけではありません。
Th17は貪食細胞である好中球を活性化させる働きがあります。好中球は異物とみなすものは全て排除しようとするので、Th17は非特異的な反応をするリンパ球だと言うことができます。


また、Th1とTh2の共通作業として、両者によるサイトカインのバランスによって抗体が作られますが、
その抗体が抗原と結合するとオプソニン化といって好中球がこの抗原を貪食しやすい状態になります。

ただし、オプソニン化で食べやすくなるといっても、勝手に好中球が現場へ集まってくるわけではありません

そこでTh17ですよ。

Th17の働きにより、現場に存在する線維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞などから好中球を呼び寄せるケモカインが産生されます。

そうしてはじめて抗原が好中球により貪食され分解されるんですね。しかもオプソニン化された抗原は退治しやすい。

こうしてみると、Th17は「Th1/Th2」の働きをさらに進める、いわば免疫のアクセルのような役割があると言えます。



「Th17」と「Treg」


Th17が免疫のアクセルだというのなら、ブレーキもあるのか?と思いたくもなりますが、それがあるんです。ブレーキが。

それは「制御性T細胞(Treg)」というT細胞。

このTregもまたナイーブT細胞から分化するサブセットのひとつ。

他のサブセットであるTh1・Th2・T17らと大きく違うのは、免疫応答を促進するものではなく、免疫応答の抑制的制御(免疫寛容)を司るT細胞だということです。

免疫寛容というのは、例えば過剰な免疫反応によるアレルギーや炎症性の疾患や、自己と非自己を間違えるような異常な免疫反応による自己免疫疾患を抑制する機能のこと。

つまりTregには、免疫のブレーキのような役割があると言えます。

Th17がアクセルならTregはブレーキですよ。


面白いのはTh17との関係。
Th17とTregは真逆の役割でありながら表裏一体のような関係であるということ。

というのは、Th17への分化には「TGF-β」および「IL-6」という2つのサイトカインの刺激により誘導されますが、「TGF-β」単独の刺激ではTregへと分化してしまうという性質があるからです。

どちらもTGF-βが関与していることから、Th17とTregは本質的には同じものかもしれないということで注目を集めているようです。
IL-6がTh17とTregの分化バランスを調節していると考えられています。

と、まあこう書くとTregはなんだかとても素敵なT細胞であるかのように思えますが、
大事なのはやはりバランスで、Tregが優勢になり過ぎるとTh17は抑制され、感染にかかりやすくなったりがん細胞の増殖を抑えられなくなります


ということで、

「Th1/Th2」 はハンドル
「Th17/Treg」 はアクセルとブレーキ


と、こう考えると「Th1/Th2バランス説」だけでは説明ができなかったのも納得です。

右と左、同時にハンドルを切れないのと同様に、
アクセルとブレーキは同時には踏み込めない。

免疫システムって上手にできてますね。

(SHIBA)


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【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?⑤「細胞性免疫」と「体液性免疫」


俗にいう「免疫力のバランス」の正体はリンパ球、とりわけヘルパーT細胞の働きによる結果だということが分かっています。

ひとつここで、一旦T細胞の話から離れ、「体液性免疫」「細胞性免疫」の存在について触れます。



「体液性免疫」と「細胞性免疫」


どちらも抗原(異物)が体内に侵入したことによって成立する獲得免疫(適応免疫)で、自然免疫(好中球やマクロファージなど)で処理しきれなかった異物に対処する免疫システムです。

司令を出すのはやはりT細胞で、ここに集まった抗原の情報を元に、その抗原に対応する抗体設計図を作ってB細胞に作らせます。

抗体の役割は大きく2つありまして

1.中和抗体・・・細菌などが出す毒素を中和して無力化する
2.オプソニン化・・・好中球など貪食細胞の食欲能をUPさせる



『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?② 「顆粒球」と「リンパ球」のバランス説』 参照


抗体が細菌と結合すると、細菌は不活化され、しかも序盤ではこの細菌には歯が立たなかった好中球も今度はオプソニン化によって食べやすくなり、殺菌してしまい一件落着となります。

しかも、この時に作られた設計図は残りますので、次回から同じ抗原が侵入した時は素早く対応できますから、同じ病気にはかかりにくくなるという特徴があります。これが本当の意味での免疫です。

この抗体を介した一連の流れを体液性免疫といいます。


一方、血液や体液の中を流れている細菌などとは違い、一度感染してしまった細胞や癌化してしまった細胞には抗体が結合することができません。自分の細胞ですからね。

こんな場合は細胞障害性T細胞NK細胞と呼ばれるリンパ球が、その異常細胞を破壊します。
抗体が使えないので「えーい、直接攻撃しちゃえ!」というわけですね。

ちなみに細胞障害性T細胞はヘルパーT細胞から指名手配書を受け取り、犯人が立て籠もっている細胞を見つけこれを叩きます。また、NK細胞はT細胞の指示を仰ぐことなく自分で捜します。指名手配書がないので特定の犯人を捜すというより見知らぬ者が立て籠もっている細胞は全て叩きます。つまり正常な自己細胞ではないと思えば全て攻撃の対象にしてしまうというのがNK細胞。

なのでNK細胞のやり方は効率は悪いですが、細胞障害性T細胞は指名手配書を受け取るまで時間を要しますので、それまではNK細胞がパトロールして頑張ってくれています。

仮にNK細胞が犯人を見落としても、その後に指名手配書を持っている細胞障害性T細胞がこれを見つけ叩き一件落着となります。

しかも細胞障害性T細胞が受け取った指名手配書は残りますので、次回から同じ感染した細胞には素早く対応できますから、同じ病気にはかかりにくくなるという特徴があります。

この、抗体を介さずに感染した細胞などを直接排除する流れを細胞性免疫といいます。


このように細菌など細胞外で悪さをする異物には「体液性免疫」、ウイルスなど細胞内で悪さをする異物には「細胞性免疫」が防御にあたります。
とはいっても、結核菌のように細菌でも細胞内に入るものには細胞性免疫が対応しますし、ウイルスだって細胞内に入り込む前は体液性免疫が対応することになるので一概に決めつけられるわけではありませんが、大まかにいえば

・細胞の異物には体液性免疫が担当
・細胞の異物には細胞性免疫が担当


となります。

細胞性免疫の主役は「細胞障害性T細胞」です。
ここで思い出して欲しいのですが、細胞障害性T細胞を活性化させるのはTh1でしたよね。

ですからウイルスにはTh1の働きが重要になってきます。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?③「Th1」と「Th2」のバランス説(前編)』 参照


では体液性免疫の主役は?といいますと、これはちょっとややこしいかな?
「抗体」だとも言えますし、抗体を作るB細胞だとも言えます。また抗体によってオプソニン化された異物を食べて実際に殺菌してくれるマクロファージや好中球などの貪食細胞こそが主役だとも考えられます。

いずれにしても、体液性免疫の主役たちを活性化させるのもやはりヘルパーT細胞ですが、かつてはTh2のことだと考えられていたようです。



これまでの常識との違い


Th1とTh2はお互いに抑制し合うので対極にある関係のようですが、実は共通する役割もあります。

それはTh1が出すサイトカインとTh2が出すサイトカインの正常なバランスによってB細胞から抗体が作られるということ。
つまり抗体は、Th1とTh2の共同作業によって作られる・・・というわけです。

かつては抗体はTh2によって作られるという考え方が主流でした。
いや、今でもそう考えているところは多いでしょう。
でも実際はTh1とTh2の両方によって抗体は作られます。


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ではなぜTh2が過剰に働くとアレルギー疾患を起こすのか?

Th1とTh2が出すサイトカインのバランスによって作られる抗体は、抗体は抗体でも「IgG」という抗体です。

IgGは細菌に結合して無力化させオプソニン化する抗体で、これこそが体液性免疫に必要な抗体なんですが。

Th2系のサイトカインだけでも抗体はできますが、その場合はIgGではなく「IgE」という抗体ができてしまい、このIgEこそがアレルギーの原因となる抗体というわけです。

IgEはダニやほこり、花粉などのアレルギー物質に結合します

一応IgEも抗体ですし、ダニなどは細胞外の異物なので体液性免疫として働くのは当然のことではありますが、「Th1<Th2」に偏り過ぎると過剰に反応してしまいアレルギー疾患を起こしてしまうというわけです。


ということで。

Th1とTh2はお互いに抑制し合うサイトカインを産生しているのであれば、
「Th1<Th2」であるアレルギー患者にTh1系サイトカインを投与することで、
Th1系とTh2系のサイトカインのバランスがとれて症状が抑えられるのではないか?という仮説が成り立ちますよね?

実は、実際にこの治療法は提唱されているんです。

でもまだ成功はみていない。

これまで「免疫力のバランス」の有力説だった「Th1/Th2バランス説」の説明がつきません。

Th1とTh2のバランスを取るだけでは免疫力のバランスは取れないとも言えるわけで、
それだけヘルパーT細胞は複雑だということになります。


また、前回の疑問だった「花粉症の人はがんにかかりにくい」という調査報告はどう説明するのか。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?④「Th1」と「Th2」のバランス説(後編)』 参照


花粉症の人は「Th1<Th2」ですよね。

Th2が過剰に働いているぶん、Th1の働きは弱いはず。
しかし、がん細胞を排除しようとするのは細胞性免疫の担当。
がんにかかりにくいということはTh1もしっかり働いていることになりますから、ここにひとつの矛盾が生じますよね。


ここで「どうもヘルパーT細胞にはTh1でもTh2でもない、別のT細胞が存在するのではないか?」
と疑問を感じた人は鋭い。

実はそうなんです。


(SHIBA)


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【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?④「Th1」と「Th2」のバランス説(後編)


免疫細胞の司令官であるヘルパーT細胞には、1型ヘルパーT細胞(Th1)2型ヘルパーT細胞(Th2)があり、
お互いのバランスを保つことで免疫の働きが正常に保たれるとするのが「Th1/Th2バランス説」

Th1はウイルスに感染してしまったり、がん化してしまった細胞を攻撃してくれるT細胞。
Th2はダニやほこり、花粉などアレルギー物質を排除しようとしてくれるT細胞。

お互いのバランスが乱れ、勢力が「Th1>Th2」となりTh1が過剰に働くと自分の細胞を傷つけすぎて「自己免疫疾患」を招く原因となり、逆に「Th1<Th2」となり、Th2が過剰に働くと過敏な反応を示す「アレルギー疾患」を招く原因となる・・・というお話しを前回しました。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?③「Th1」と「Th2」のバランス説(前編) 』 参照



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そういうわけで、例えば花粉症に悩まされている人は、「Th1<Th2」となり、Th2が過剰に働いているからだと言えるわけですね。

問題は、それが分かっていても花粉症を抑えられるものでもないということ。
体質というべきか、Th1とTh2のバランスはそう簡単にコントロールできるものではなさそうです。

では何故そんな体質になっちゃうのか。バランスが乱れる理由ですね。

これは、幼少期の過ごし方と関係していると考えるのが有力な説となっています。


衛生仮説


幼少期に細菌やウイルスに感染するほど、アレルギー疾患にはかかりにくいという説があります。

これは、生後しばらくは免疫細胞がまだ少なく(とくにリンパ球)、成長と共に細菌やウイルスにさらされることで免疫細胞が育つと考えられているからです。

免疫の本当の意味は「一度かかった病気に対する抵抗力が上がって、二度とかからなくなる」ことでしたよね。

『【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?① 「高める」との違いは? 』 参照


ですから、生まれてから清潔な環境に育ちすぎて細菌やウイルスに感染する機会が少ないと、免疫細胞が育たない。特にTh1細胞が育ちません。

この場合、ずっと「Th1<Th2」のまま成長すれば当然アレルギー体質になります。

このような考え方を「衛生仮説」といい、過保護な子ほどアトピーや花粉症になりやすいと考えられています。

近年、アトピーや花粉症などアレルギー疾患を有する人が増加の一途を辿っているということは、
我々がそれだけ清潔な環境に浸っているということでしょう。
それを裏付けるかのように、農場育ちの子供はアレルギー疾患にかかる率が低いというデータもあるそうです。

花粉症の原因のひとつであるスギの花粉は、都会よりもスギが生育している集落の方が圧倒的に飛散しているはずなのに、なぜか都会に住む人の方が花粉症になりやすい。
これも衛生仮説によるものだと考えられています。



衛生仮説への疑問


しかし・・・

この説には、ちょいと疑問を感じています。

花粉症知らずの田舎育ちの人が、都会に出てくると急に花粉症になったりすることがあるという話が珍しくないからです。

ということは、これは体質の問題(Th1とTh2のバランスの問題)とは言い切れないのではないかと。

都会の地面はコンクリートやアスファルトが多いことに注目すると、土の多い田舎と比べて都会の方が花粉が舞い上がりやすいのではないかと考えることができます。花粉が土に還らないのでいつまでも空気中に循環していると思えば、都会の方が花粉症になりやすいと考えるのは容易なことです。

実際そのように考えている人も多いでしょう。

ただ、都会に住む人たちの間でも花粉症になる人とならない人がいることも確か。
少なくとも同じ環境でも差があるのであれば、やはり何らかの体質の問題はあるのかもしれません。

そこで、

改めて「花粉症」という症状に対する考え方に注目してみてはどうでしょうか。

我々は花粉症のことをアレルギー疾患だと考えている。つまり人体にとって無害であるはずの花粉に反応しているわけだから、これは過剰反応だと。

しかし本当に無害なのでしょうか。

確かに花粉自体は無害でしょう。しかし都会にまで飛散してくる間に、例えばPM2.5などの有害物質が付着することは十分考えられます。
PM2.5は粒子の大きさが名のとおり2.5?。花粉は約30?らしいから余裕で付着可能ではないでしょうか。

大気中に漂う有害物質は自動車の排気ガスや工場からの排煙などいろいろあるでしょう。

はたしてこれらが付着した状態の花粉は無害と言えるでしょうか。
免疫システムが働いてこれらを排除しようとするのは、過剰反応ではなく正常な反応かもしれませんよね。

だとすれば、Th2細胞が暴走しているのではなく頑張ってくれていると考えることができます。



「Th1/Th2バランス説」の限界


本当に免疫力のバランスはTh1とTh2で成り立っているのでしょうか。

最近の調査報告では「花粉症の人はがんにかかりにくい」と発表もされています。

東京大学のチームがすべてのがんの死亡リスクと花粉症との関係を調べたところ、花粉症の人は全疾患の死亡リスクが43%低く、特にがんは52%も低かったというではありませんか。

同じような報告は、例えばスペインでは喘息とすい臓がんの関係について、アメリカではアトピーと大腸がんの関係について発表されています。

つまりアレルギー体質だとがんにかかりにくいという結果が出ています。

理由は「アレルギー疾患は本来無害であるはずの物質や刺激に対しても過敏に反応する免疫作用なので、正常細胞が異常化したがん細胞に対しても速やかに撃退するから」ということらしい。

ごもっともな解釈ではありますが、しかしこれ。「Th1/Th2バランス説」とは矛盾しますよね。

がん細胞を排除しようとするのはTh1の働き。
アレルギー物質を排除しようとするのはTh2の働き。

よって花粉症などTh2が過剰に働いている人は「Th1<Th2」になっているはずで、がん細胞を攻撃する能力は落ちているはずになりませんか?


もうね。免疫のバランスは、Th1/Th2細胞だけでは説明できないことがありそうです。


(SHIBA)


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【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?③「Th1」と「Th2」のバランス説(前編)


俗に言う「免疫力のバランス」

「免疫力のバランスが乱れると健康状態に影響を及ぼす」という表現が、健康本や健康番組などで当たり前のように使われています。

なんとなく言いたいことが分かるような、しかしどういう意味か分からないような微妙な表現ではないでしょうか。

事実、「免疫力」という医学用語は存在せず、したがって「免疫力のバランス」という言葉には定義がありません。


そこで「免疫力のバランス」とはどういう意味なのか?について考察を続けていますが、

おそらく一番有力な説。といいますか、「一番こういう意味で使用されているだろうな」と思えるのが

「Th1」と「Th2」のバランスです。


Th1/Th2 バランス説


免疫細胞(白血球)には様々な種類があります。

免疫細胞は異物(非自己)と認識した物を排除しようとする働きがあります。
そのおかげで我々は風邪や病気から身を守っているわけですが。

ここでいう異物(非自己)とは、細菌やウイルスといった感染症をもたらすような病原体以外にも、ダニやほこりも含まれるし、なにも外から侵入してくるものばかりではなく、がん細胞と化した元々は正常だった自分の細胞をも含まれます。

そして、異物によって対応する免疫細胞がそれぞれ違ってきます。

しかし全ての異物に関与している免疫細胞がありまして、それが「ヘルパーT細胞」と呼ばれるリンパ球です。

ヘルパーT細胞は、最前線で戦っている免疫細胞たちから情報を受け取り、各免疫細胞に指令を出す、いわば免疫の司令官のような役割りを担っています。

各免疫細胞が秩序良く、また効率的な働きができるかどうかはヘルパーT細胞次第といったところでしょうか。
なので、免疫力のカギを握っているのはこのヘルパーT細胞だとも言えるわけです。


で、具体的にこのヘルパーT細胞がどのような働きをしているかといえば、
体内に侵入した敵(異物と判断した物)に応じた抗体を作って敵を無力化すること。

実際に抗体を作るのはB細胞(これもリンパ球)ですが、
例えば毒素を撒き散らしているある細菌Aが侵入した場合、この細菌Aに対する情報を元にヘルパーT細胞からB細胞へ指令が来て、細菌A専用の抗体Aを作成します。
この抗体Aが細菌Aと結合すると細菌Aは毒素が出せなくなり無力化します。逮捕されたような感じですね。
それだけではありません。細菌に抗体が結合すると、好中球がその細菌をむしょうに食べたくなるという効果もあります(オプソニン化)

ちなみにこの抗体Aは細菌A専用の抗体なので細菌Aにしか作用しません。

しかし敵がウイルスだと状況が変わってきます。

細菌は感染した生物から栄養さえ貰えれば自力で増殖することができますが、ウイルスは細菌と違って自分で増殖することができません。ウイルスは細胞を持たないのです。
なので感染した生物の細胞の中に侵入して寄生し、その遺伝子を書き換えて自分を複製しながら増殖をしていきます。
複製されたウイルスは別の細胞へ侵入し、そこでまた複製することで感染していきます。

ウイルスに対する抗体を作り好中球に食べてもらおうにも、ウイルスにはその方法が使えません。
抗体は細胞の中には入れないからです。
抗体は細胞の外で悪さをしている細菌には結合できても、細胞の中で悪さをしているウイルスには役に立ちません。
血管や細胞間をパトロールしている好中球たちも抗体と結合していないウイルスには反応してくれません。

さて、こんな時に活躍するのが「細胞障害性T細胞」と呼ばれるリンパ球です。

細胞障害性T細胞はかつて「キラーT細胞」と呼ばれていたT細胞で、同じT細胞でもヘルパーT細胞のような司令官と違い、直接現場にてウイルスと戦います。
どのようにしてウイルスを撃退するかといえば、なんてことはない。感染した細胞ごと撃退してしまうんですね。

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感染した細胞からウイルスを取り除くのではなく、感染した細胞はもう敵とみなしてしまうというわけです。
ゾンビ映画と同じですよ。一度ゾンビ化してしまったらもう人間には戻れないから殺すしかないみたいな・・・
もしくはあれだ。火事になった家の火を消すのではなく、家ごと破壊して周りに火が回らないようにしてしまう江戸の火消し戦法みたいなイメージかな。

とにかく細胞を攻撃するから「細胞障害性T細胞」とは、もう字の如くですね。

そして、この細胞障害性T細胞はむやみやたらに細胞を傷つけるわけではありません。
ヘルパーT細胞からそのウイルスに関する情報、つまり指名手配書を受け取って、このウイルスが立て籠もっている細胞を探して攻撃するという仕組みです。

 ・細胞ので悪さをするのが細菌
 ・細胞ので悪さをするのがウイルス


と覚える分かりやすいかもしれません(例外はあります)


ここでもう一度、ヘルパーT細胞の話に戻ります。

ヘルパーT細胞は免疫細胞の司令官だと言いましたが、実はヘルパーT細胞にも種類がありまして、
抗体をB細胞に作成するよう指令を出すのは1型ヘルパーT細胞(Th1)2型ヘルパーT細胞(Th2)のバランスによって決まります。

やっと名前が出てきたよ「Th1」と「Th2」

さしずめTh1は第1軍の司令官、Th2は第2軍の司令官といったところでしょうか。

そして細胞障害性T細胞に指令を出すのはTh1

なのでTh1が過剰に働くと自分の細胞を傷つけすぎてしまうことになります。
これが「自己免疫疾患」と呼ばれる症状で、リウマチやエリテマトーデス、多発性硬化症など多岐に渡る原因となります。

一方、Th2には好酸球の働きを促進させる働きがあります

好酸球はダニやほこり、花粉などアレルギーの原因となる物質の排除にあたる顆粒球の一種です。

好中球は細菌に対して。好酸球はアレルギー物質に対して。

Th2の働きが過剰になるとアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそく、あるいは花粉症といったアレルギー反応を示します。

このTh1とTh2はお互いにバランスを取り合っていると考えられています。

そのため、どちらかの働きが優勢になりバランスが乱れると、Th1に傾けば自己免疫疾患、Th2に傾けばアレルギー疾患になるというのが「Th1/Th2バランス説」です。


しかし、なぜバランスが乱れるんでしょうかね。そのへんが気になるところではないでしょうか。


(SHIBA)


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【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?② 「顆粒球」と「リンパ球」のバランス説


どうもSHIBAです。

前回に続き、「免疫力のバランスとは?」について考察してみます。

「免疫力は高すぎても低すぎてもダメ」という考え方には無理があるというお話しをしました。

そもそも「免疫力」という用語は存在せず、ここでいう免疫力とは、主に免疫細胞の活動力を意味するものと推測しますが、
免疫細胞には様々な種類があり全てが同じ働きをしているわけではありません。



「顆粒球」と「リンパ球」のバランス説


免疫細胞全体のうち大きな割合を占めているのは「顆粒球」「リンパ球」です。
この比率バランスがどちらかに偏ると病気になりやすいという説があります。

顆粒球は、病原体(主に細菌)が体内に侵入した場合に真っ先に駆けつけてこれを撃退しようとします。
しかし、顆粒球は炎症を起こすので、顆粒球が増えすぎると動脈硬化がんなどの引き金になるそうです。

また、リンパ球は、細菌よりも小さな異物(ウイルスや花粉、ダニなど)の駆除に対応します。
しかし、リンパ球が増えすぎると異物に対する過剰な反応、つまりアレルギー症状を引き起こしやすくなるそうです。


この構図は分かりやすく書くと

「顆粒球>リンパ球」 … アレルギー体質ではないが動脈硬化やがんになりやすい

「顆粒球<リンパ球」 … アレルギー体質だが動脈硬化やがんになりにくい


ということになります。


これは結構支持されている説ですが、この構図には少し誤解を招く可能性があります。

顆粒球が促進されるとリンパ球が抑制され、逆にリンパ球が促進されると顆粒球が抑制されるように見えますが、そうではありません。

実は顆粒球を活性化させるのはリンパ球の指令によるものなので、両者は密接な関係にあります。

顆粒球には「好中球」「好酸球」「好塩基球」の3種があり、それぞれ細菌やウイルス、寄生虫にアレルギーの素となる物質など対応する相手に違いがあります。

そして好中球なら「IL-17」、好酸球なら「IL-5」、好塩基球なら「IL-4」というサイトカイン(情報伝達物質)によって活性化されます(「IL」は「インターロイキン」の略)

これらサイトカインは全てリンパ球である「ヘルパーT細胞」が産生するので、リンパ球の働きが悪いと顆粒球も活性化されないということになります。


ちょっとここで、顆粒球の大半を占める好中球に注目してみます。

好中球は、主に細菌などの病原体を貪食することで身を守ってくれています。

上記のように「IL-17」よって、細菌の周りに好中球が集まってきますが、そのままでは細菌を食べてくれません。

好中球がしっかりと働くにはもう一つ条件がありまして、それは抗体が細菌の表面に結合することです。

抗体が細菌と結合することで好中球が食べやすくなるんですね。
細菌の表面に抗体がたくさん結合すれば、それだけ好中球の食欲が増進されるみたいなものです。
この「抗体が病原体に結合して食べやすくする」ことをオプソニン化作用といいますが、問題のその抗体はやはりリンパ球であるB細胞が産生しています。

抗体


ということで結局のところ、好中球が頑張り過ぎて炎症を起こし、動脈硬化やがんを招くほど活性化されるには、その裏でリンパ球の働きも相当あるはずで、「顆粒球が多すぎるからがんになりやすい」とは一概に言えないはずなんですね。

そう。問題なのは数ではありません。

いくら好中球が増加しても活性化されなければ炎症は起こさないはずで・・・


では、好中球が増加するのはどんな条件かといえば、それは細菌などの病原体が侵入してきた時。

白血球は骨髄で作られます。なので好中球も骨髄で作られるわけですが、細菌感染症になるとその細菌を除去するために好中球が動員されます。

最前線で戦死した分だけ好中球は骨髄で作られ補充されます。しかし敵の数が多ければ、その分だけ好中球も多く作られます。

これが好中球が増加した状態です。
よく血液検査で「白血球が多いですね」と言われたら、それは好中球が多いということだと思って構いません。

もちろん、好中球の数が多ければ、細菌を撃退する代わりにそれだけ炎症を起こす可能性も高くなりますが・・・

ここで注意しなければならないのは「細菌が多い=好中球が多い」とは限らないということ。

細菌の数が多すぎて好中球の増産が間に合わず「細菌が多い=好中球が少ない」ということもあり得るからです。

また、好中球が多いからといっても、それは「細菌に対応するするため増産はしたものの、リンパ球の働きが悪いために活性化されず、ずっと待機状態になっている」という可能性も考えられます。
又は、数は多くてもその中には、急いで増産されたためにまだ未熟な好中球も含まれている場合もあるでしょう。


・・・と。

このように見ていくと、単に数の比率バランスだけをみて

「顆粒球>リンパ球」 … アレルギー体質ではないが動脈硬化やがんになりやすい

「顆粒球<リンパ球」 … アレルギー体質だが動脈硬化やがんになりにくい


という構図は、当てはまる場合もあればそうでもないこともある・・・と言えそうです。


しかも、病原体が細菌ではなくウイルスの場合、好中球ら顆粒球ではなくリンパ球の出番になります。

つまり、全ての異物に関与しているのはリンパ球であり、注目するのはリンパ球の働き方ではなかろうか。


(SHIBA)


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【健康】 「免疫力のバランス」とはどういう意味?① 「高める」との違いは?


健康番組や健康本を見ていると「免疫力のバランスを整えましょう」という言葉をよく目にします、どうもSHIBAです。。

確かに健康な体づくりには免疫の働きが必要です。
しかしなぜ「免疫力を高めよう」ではなくて「整えよう」なのか。

不思議に思ったことはありませんか?

この言葉の意味をちょっと考えてみると「免疫力のバランス」という言葉がいかに曖昧で便利な言葉か分かります。

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「免疫」の本当の意味


そもそも「免疫力」という言葉は医学用語には存在しません。

字の如く解釈すれば「免疫の力」という意味で間違いないとは思いますが、
この場合の「免疫」とは、病原菌などの非自己的なモノ(自分とは違う異物)を認識してこれを排除しようとする生体防御システム全体を指していることが一般的だと思われます。

ただ厳密には「一度かかった病気に対する抵抗力が上がって、二度とかからなくなる」のが「免疫」の本当の意味になります。

ほら、例えば麻疹(はしか)にかかったら麻疹ウイルスに対する抗体ができて、ふつうはもう麻疹にはかかりませんよね。
それが本当の意味での免疫なんです。


ヒトの免疫細胞には「自然免疫」「獲得免疫(適応免疫)」があります。


「自然免疫」・・・主に好中球マクロファージなど。病原菌などの非自己的なモノ(自分とは違う異物)と認識した物なら不特定に攻撃する。即効性に優れているが、やや攻撃力は弱い。

「獲得免疫(適応免疫)」・・・主にT細胞B細胞とよばれるリンパ球。侵入した異物の情報を元に後天的に形成される免疫で、認識した特定の異物に対してのみ攻撃する。時間がかかるが、攻撃力は強い。



なお、獲得免疫は「免疫記憶」といって、一度形成された免疫は記憶されて、次回からは同じ病気にかかりにくくなる特徴があります。
なので厳密にはこれが本当の「免疫」を意味するんですね。

まあ、でも一般的には自然免疫も含めて「免疫」とみなす場合が多いうえに、皮膚や粘膜など物理的な障壁も免疫に含めることもあるので、ここでもその見解に合わせることにします。



なぜ「高めよう」ではなく「整えよう」なのか


さて。免疫力とは、ざっくりと「異物(非自己)から身を守る能力」と言えます。
異物(非自己)には、細菌やウイルスといった感染症をもたらすような病原体以外にも、ダニやほこりも含まれるし、なにも外から侵入してくるものばかりではなく、がん細胞と化した元々は正常だった自分の細胞をも含まれます。

と、こう聞けば免疫力は高ければ高いほど良さそうなものですよね。

ところが、免疫力が高すぎると免疫細胞が過剰な反応をしたり暴走したりするという考え方が存在します。

過剰な反応とは、例えば無害であるはずの花粉にもアレルギー反応を起こすこと。
暴走とは自己の細胞を異物と認識して攻撃をしてしまう膠原病などの自己免疫疾患のこと。

かといって免疫力が低ければ様々な感染症を起こします。


要は、免疫力というものは高すぎても低てもダメで、程よい高さが一番免疫が正常に働くというわけですね。

これが、「高めよう」ではなく「整えよう」と言われる理由の一つです。

しかしねぇ・・・

なにをもって免疫力が高いだの低いだの分かるものか。数値で表すことができるわけでもありません。

しかもひと口に免疫力といっても、免疫細胞にはいろんな種類があって、それぞれ役割も違えば活性化の仕方も異なるもの。

そんな単純な仕組みではありません。


「免疫力は高すぎても低すぎてもダメ」という表現は、どうも曖昧な感じがします・・・


(SHIBA)


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